【静岡県浜松市のまつり 冬編】奈良時代や江戸時代から続いている山間地域の貴重な神事祭り
浜松民族芸能編第3弾です。
今回は国の重要無形民俗文化財に指令されている「西浦田楽」と「横尾歌舞伎特別公演」をお送りします。
「西浦田楽」は非常に長い歴史と伝統を持っており、旧暦1月18日、月の出から翌日の日の出まで、厳寒の観音堂で夜を徹して行われる神事です。
「横尾歌舞伎」は、農村歌舞伎で江戸時代以降絶えることなく伝承されてきたものです。
定期公演は、毎年10月の第二土曜日・日曜日に行われています。
今回は2月2日に行われた特別公演をお送りします。
この記事の見出し
「西浦田楽(にしうれでんがく)」の松明:池島タイ(大松明)
「西浦」と書いて「にしうれ」と読みます。
西浦田楽は「西浦観音堂」の境内で、毎年旧暦の正月18日と19日に行なわれる神事です。
「西浦観音堂」は「飯田線沿い 地元で残したい風景 第3弾」記事内でも紹介しています。
2020年は2月11日・12日に行われました。
719年(養老3年)に行基菩薩がこの地に訪れ正観世音の仏像と仮面を作って奉納したのが始まりとされています。
約1300前の奈良時代からこの神事は伝承されていることになります。
この田楽は柳田國男や折口信夫など、著名な民俗学者も関心を集める奇祭であり、田楽舞のルーツを伝える貴重な民俗芸能として全国的に紹介され有名になりました。
昭和51年に国の重要無形民俗文化財に指定されています。
全47番の演目が行なわれ、その第11番に船渡しが行われます。
綱を手繰って御船を池島タイ(大松明)へ運び境内の一角に立たせます。
その大松明を観音堂の灯明で火をつけます。
立っているので「タチダイ」とも言います。
その横にも松明が山と積まれ、そこにも火をつけます。
参加している方に聞いた話では、3つの地域から松明の木材が寄進され、タチダイは1地区、のこりの2地区はその横の山積みされた松明を奉納するということです。
タチダイに火をつけることによって、神様が降臨し、田楽を見守っているとのこと。
この火は、田楽が終わるまで燃え尽きることはありません。
「西浦田楽」:田楽舞
西浦田楽は、能衆(のうしゅう)と呼ばれる演者が「五穀豊穣」「無益息災」「子孫繁栄」を願って舞われる演目です。
月の出から夜明けまで笛太鼓に合わせて、神様を楽しませる「33の地能と12のはね能」を舞います。
祭主を務めるのは、別当(べっとう)と呼ばれるお祭りの代表者です。
本番の2〜3週間前から身を清める準備を一人で内密に行う儀式からスタートします。
本番の当日、20数名の能衆により田楽が舞われます。
能衆の役は代々世襲により受け継がれ、肉食を忌み、不幸は関与しないなど厳しい戒律を守り続けているそうです。
司会者や案内などないので、いつのまにか次の演目に入り、舞は淡々と続きます。
これは第28番の「田楽舞」です。
日が昇るまではまだ4時間以上ありますが、舞はクライマックスに入っています。
笛太鼓に合わせて、同じ装束の能衆が廻り跳ねています。
「しってり」を持って「へんばい」を踏みます。
「シャラ・シャラ」と聴こえる声がしますが、何と言っているのかは判りませんでした。
「西浦田楽」:佛の舞(ほとけのまい)
西浦田楽は2月に行われます。
一年で一番寒い頃です。
タチダイや横にある巨大な松明が燃え盛っているので、その近くにいけば暖は取れますが、そこ以外は寒さは身に染みます。
だから防寒対策は皆さん完璧です。
見物に来ている方は、横浜の現役大学生や民俗芸能に興味のある初老のご夫婦やら。
西浦田楽を観るために、全国から集まって来ていました。
もちろん、地元の好事家の方々が白い息を吐きながら、舞に魅入っています。
境内の片隅に小さな売店があって、お酒やうどん等の温かいものを販売しています。
中頃に1時間の休憩が入ります。
そこで買い求めたものを片手に、皆で寛ぐわけですが、見知らぬ同士も西浦田楽を話題に交流がはじまります。
意外に近くに住んでいたり、同じ趣味がわかったりと、一時間はすぐに過ぎてしまいます。
上演演目の内容
第28番の「田楽舞」の次は第29番「佛の舞」になります。
会場の灯りが突然消え、手に持つ松明のみの灯りだけの中、仮面を被った能衆が入ってきます。
神様のお出ましです。
千手観音、馬頭観音、子安観音など六観音様が松明の明かりの中、現れます。
暗闇に松明の炎が燃える中、幻想的な仮面の舞が浮かび上がり、不思議な神の世界へと入っていくようでした。
夜が明ける頃、神様に帰って頂く「しずめ」の儀式をして終了となります。
国の重要無形民俗文化財に指定されるだけあって、幻想的で神秘的で神がかった西浦田楽でした。
一度は観に行って下さい。
世界観が変わるかもしれません。
「横尾歌舞伎特別公演」:寿曾我対面
浜松市北区引佐町横山では、200年以上前から伝承されている歌舞伎があります。
寛政6年(1794年)の御定書に記載されています。
静岡県指定無形文化財と地域文化功労文部大臣表彰受賞している、伝統ある農村歌舞伎です。
役者・三味線・囃子・振り付け師・衣装の着付け・床山化粧・大道具小道具すべてを地域の保存会の会員により運営されています。
歌舞伎浄瑠璃本・カツラ・衣装・大道具・小道具まで全て保有。
地区の一軒あたり1.000円の会費とわずかな寄付だけで 毎年公演を続けています。
定期公演と特別公演の2回公演をしています。
今回は、令和2年2月2日に行われた特別公演の様子をお送りします。
上演演目の内容
上演演目は三つ。
「寿式三番叟 宝の入船」
「寿 曾我対面 工藤館の場」
「絵本太功記十段目 尼ケ崎閑居の場」
これは「寿 曾我対面 工藤館の場」
女子中学生の二人が曾我兄弟を演じ、この兄弟の父の仇である工藤祐経と対面を果たします。
しかしこの場での敵討ちは無理であったと悟ります。
工藤も討たれてやろうという本心があり、兄弟と工藤は再会を約束して別れていきます。
歌舞伎の長い台詞を堂々と詠じていて、その可憐な演技と共に人気を呼んでいます。
さらに見得が見事に決まった瞬間は、会場からおひねりと拍手が飛んでいました。
次世代へと受け継がれている「横尾歌舞伎」
「横尾歌舞伎特別公演」:絵本太功記
横尾歌舞伎は、北区引佐町横尾東四村農村コミュニティーセンター「開明座」で行われています。
ここは、歌舞伎専用の舞台となっています。
歌舞伎は音も含めた総合芸術なので、プロを招き 三味線教室や義太夫語りも併せて養成しています。
公演に向けて横尾歌舞伎保存会に所属している地元の大人はもちろん、地元の子ども達も稽古に励んでいます。
小学生から参加する横尾歌舞伎少年団が結成されたり、初心者のための三味線教室も別に行われ、伝統が引き継がれていくよう指導が行われています。
一通り弾けるようになってから浄瑠璃、歌舞伎の三味線を練習します。
「ちょっと三味線が足りないから出て」といわれて少年団を卒業した高校生がさっと舞台に上がって三味線を弾くと言うようなことも珍しいことではないそうです。
大道具を手作りする大工さんもいるし、勘亭流の文字でチラシを作る人もいる。
この地域は人材の宝庫です。
それぞれの得意分野で力を発揮しています。
今は誰に強制されなくても、声を掛け合ってすぐに30人ぐらいが集まります。
歌舞伎に携わることによって、若い人たち同士で新しい交流が生まれてきているのです。
ここでみんなの輪に加わるうちに友達もできます。
「横尾歌舞伎特別公演」:絵本太功記<十段目 尼ケ崎閑居の場>
武智光秀は本能寺を襲って、主君小田春長を討った後の話になります。
母の尼ヶ崎閑居所にて、息子の十次郎の初陣と祝言を行い、戦地へ向かう。
宿を求める旅僧に扮した真柴久吉を迎え、それを見抜いた光秀は、寝室に槍を突っ込み夜襲を掛けますが、主君を殺したことを悲観した母が代わりに槍を受けるのです。
母の最後に悲観に暮れる光秀。
そこに敗戦で瀕死の十次郎も戻ってきますが、力尽きてしまいます。
陣場羽織姿となって現れた真柴久吉に、光秀は刀を構えて向かおうとします。
この演目のクライマックスなので、その力強い演技におひねりが舞台に投げ入れられます。
しかし久吉は山崎で雌雄を決せんと言い放ち、その場を去っていった。
大河ドラマの「麒麟がくる」の明智光秀を歌舞伎で演じた舞台ですね。
プロの歌舞伎も素晴らしいですが、このような農村歌舞伎も、負けず劣らず素晴らしい舞台です。
入場無料ですので、ぜひ一度ご観覧下さい。
ご紹介の詳細情報
奈良時代から地域で受け継がれている「西浦田楽」
国指定の重要無形民俗文化財
開催日 | 毎年旧暦の1月18日~19日 ※2020年は、2月11日の夜~12日の朝まで開催しました。 |
---|---|
開催時間 | 月の出(20:00~21:00頃)から 翌日の日の出(7:00~8:00頃)まで |
会場 | 西浦観音堂境内 |
会場住所 | 浜松市天竜区水窪町奥領家5219 |
電話 | 水窪文化会館 053-982-0013 |
駐車場 | 西浦観音堂付近はなし。 ※旧西浦小学校臨時駐車場30台分 (会場までは徒歩15分) ※水窪協働センター駐車場 (会場近くまでのシャトルバス有り) |
アクセス | 車 JR浜松駅から国道152号 経由 約2時間10分 |
約200年前から地域の人々によって伝承されている「横尾歌舞伎特別公演」
静岡県無形民俗文化財
開催日 | ※2020年は、2月2日(日)に開催しました。 |
---|---|
開催時間 | 13:00~16:00頃 |
会場 | 農村コミュニティーセンター「開明座」 横尾歌舞伎資料館 |
会場住所 | 浜松市北区引佐町横尾899-1 |
電話 | 引佐協働センター 053-542-1112 |
入場料 | 無料 |
駐車場 | あり ※引佐総合体育館駐車場 |
アクセス | 車 ●新東名「浜松いなさI.C」から国道257号・県道303号経由南進→約15分 ●東名「浜松西I.C」から県道65号を東進・国道257号北進→約30分 |
浜松市に伝わる伝統芸能 冬編を描いて
今回で、浜松市のまつりシリーズは終了させていただきます。
まだまだ取材、参加したい祭りは数多くあります。
祭りの記事ができましたら、また投稿したいと考えています。
地元で残したい風景と浜松市のまつりをお送りしてきましたが、2018年12月から始まって、今回で100枚の投稿となります。
次回はその中からベスト10を選んでUPしていきますので、よろしくお願いいたします。
その他の浜松市の祭り記事
この記事をSNSでシェア